ヴィリニュス街歩きの後編

投稿日: 2025年10月1日 05:09

ヴィリニュス街歩きの後編

ヴィリニュス一日散策マップ

ヴィリニュス一日散策マップ

前回のブログでは、ゲディミナス塔や大聖堂、そして白い鐘楼をめぐりました。首都ヴィリニュスの象徴的な場所を歩いた後は、広場を後にして、パン屋での朝食から始まり、アートと自由の街「ウジュピス共和国」、そして旧市街の教会や夜明けの門、市場や駅へと、一日をかけて街を歩きます。
観光名所はもちろん、ちょっとした寄り道や地元の人たちの日常に触れられるスポットも組み込みました。
さあ、ヴィリニュスの街歩きの続きをご一緒に。

朝ごはんは、こちらで

朝ごはんは、こちらで

大聖堂広場を抜けて、私たちが足を運んだのは ベーカリー「crustum」。
扉を開けると、ふわりと広がる焼き立てパンの香り。木目調のカウンターに並ぶのは、クロワッサンやデニッシュ、そしてリトアニアならではの郷土菓子。
選んだのはまず、スクルズデリナス(Skruzdėlynas)。その名の意味は「アリの巣」。パリパリと軽やかな生地。ひと口かじれば甘さが広がり、素朴な味でした。
そしてもうひとつは、キビナイ(Kibinai)。半月型の焼きパイを頬張ると、香ばしい生地の中から肉と玉ねぎの旨味が。
この日は少し肌寒い朝でしたが、パン屋の外に設けられた小さなテーブルで、カプチーノとパンを広げ、贅沢な時間を過ごしました。

Crustum
Pilies g. 4, Vilnius, 01124 Vilniaus m. sav., リトアニア

アートが息づく街角で

アートが息づく街角で

ベーカリーを出て少し歩くと、レンガ造りの壁に小さなティーポットやカップが並んでいる一角に出会いました。ここは 「Arbatinukų siena(ティーポットの壁)」。通りすがりの人が思わず立ち止まって見上げる、不思議で温かいオブジェです。異国の地でありながら、なぜか「誰かの台所」を覗き込んでいるような親近感が湧いてきます。
足元にも遊び心は隠れていました。よく見ると石畳の中に模様や彫刻が潜んでいる 「Sidewalk Stone Art」。注意深く見ないと通り過ぎてしまいそう。

聖アンナ教会

聖アンナ教会

歩いていると、視界いっぱいに現れたのは 聖アンナ教会。
赤レンガを組み合わせたファサードは繊細で、思わず立ち止まってしまうほどの美しさです。ナポレオンが「フランスに持ち帰りたい」と語った逸話も納得できます。

中に入ると、外観の華やかさとは打って変わって、ひんやりと静かな空気。長い年月を経ても人々を迎え入れ続ける、この教会ならではの落ち着きがありました。

すぐそばには、ポーランドの国民的詩人 アダム・ミツキェヴィチ像 が立っています。聖アンナ教会と並ぶ姿は存在感があり、観光客は教会を背景に像を写真に収めていました。

橋を渡って、ウジュピスの入口へ

橋を渡って、ウジュピスの入口へ

聖アンナ教会を後にして、私たちは小さな橋 「Pėsčiųjų tiltas per Vilnelę」 へ。
ここは旧市街とウジュピス地区をつなぐ歩行者専用橋で、川沿いの緑と穏やかな水面が広がり、のんびり散策にぴったりの場所です。

橋を渡るとすぐに現れるのが、アート感あふれる AP Galerija通り。壁に描かれたグラフィティや小さなギャラリーの展示が目を引き、歩くごとに新しい発見が待っています。

ウジュピスで出会う個性派スポット

ウジュピスで出会う個性派スポット

橋を渡って最初に立ち寄ったのは、リトアニア美術探訪センター TARTLE。
リトアニア美術や歴史に触れられる施設として知られており、観光客にも人気のスポットです。
ただ、訪れた日は休館で中には入れず。
外観は落ち着いていますが、中に入ると多彩なコレクションが展示されていて、静かにアートと向き合える空間になっているそうです。

そこから歩いてすぐに出会ったのが、「ウジュピスのネコ」。ちょこんと座る姿はユーモラスで、通りを見守るような愛嬌があります。

次は、ウジュピスのシンボルともいえる 「ウジュピスの天使」 が広場に登場。翼を広げた天使像は、この地区の自由で芸術的な精神を象徴しています。



聖バルトロメイ使徒教会

聖バルトロメイ使徒教会

さらに進むと、18世紀に建てられた St. Bartholemew the Apostle Church(聖バルトロメイ使徒教会) が見えてきます。
外観はシンプルなバロック様式で、白い壁と塔が青空に映えていました。幸いこの日は扉が開いており、中に入ることができました。内部は質素ながら温かみがあり、木製の祭壇や彩色された装飾が静かに輝いていました。観光客の姿は少なく、祈りの場としての静けさが保たれていて、短い時間でしたが落ち着いたひとときを過ごせました。


訪れたかった場所 ― ウジュピス共和国憲法

訪れたかった場所 ― ウジュピス共和国憲法

ウジュピス地区の散策で、私たちが最も心待ちにしていたのが 「ウジュピス共和国憲法」。カフェやギャラリーが集まる一角に、40以上の言語で翻訳された憲法が壁いっぱいに掲げられています。
1998年4月1日、芸術家たちが自らを「共和国」と宣言し、この憲法を発表しました。エイプリルフールに始まった遊び心の延長のように思えますが、その条文に込められているのは 「自由」「尊重」「ユーモア」 という精神です。
たとえば、
・「犬には犬である権利がある」 → 人間だけでなく、すべての命を尊重する心。
・「誰も泣く義務はない」 → 個人の感情は自由であり、強制されるものではないという考え。
・「誰もが自分を愛する権利を持つ」 → 他者を尊重するためには、まず自分自身を受け入れる大切さ。
・「誰もが幸福である義務を持つ」 → 幸せは権利であると同時に、自分で見つけにいく責任がある。


一見ユーモラスですが、どの条文にも「誰もが平等で、ありのままに生きることを認め合う」という哲学が込められています。
壁の前では多くの観光客が立ち止まり、自分の国の言語のプレートを探して笑顔になっていました。私たちも日本語のプレートを見つけ、胸の奥に温かいものが広がるのを感じました。

Paupio g. 3A, Vilnius, 01201 Vilniaus m. sav., リトアニア

人魚に導かれて

人魚に導かれて

ウジュピス散策の最後に出会ったのは、川辺の壁に腰掛ける小さな像、**「ウジュピスの人魚」**でした。遠目には気づかないほど控えめな存在ですが、観光客の間では 「この人魚を見つけたら幸せになれる」 という言い伝えがあります。
地元ではもうひとつの言い伝えも語られています。人魚の魅力に抗えなかった人はウジュピスに留まる、あるいは必ず戻ってくる——
Užupio g., Vilnius, 01200 Vilniaus m. sav., リトアニア

旧市街へ戻ると、バロック様式が華やかな 聖カジミェシュ教会。白とピンクの外観は可憐で、青空の下にひときわ映えます。内部の装飾は繊細でありながら堂々としており、祈りの場でありながら芸術作品としても楽しめる空間でした。
Didžioji g. 34, Vilnius, 01128 Vilniaus m. sav., リトアニア

さらに進むと、アーチ状の門が印象的な 聖三位一体教会の門、そして荘厳な雰囲気を放つ ロシア正教会(Holy Spirit) が並びます。宗派の異なる教会が隣り合う風景は、ヴィリニュスの多様な歴史と文化を象徴しているかのようでした。
Aušros Vartų g. 11, Vilnius, 01304 Vilniaus m. sav., リトアニア




夜明けの門

夜明けの門

旧市街の外れにそびえる 「夜明けの門」 は、16世紀に築かれた城壁の一部。現在も礼拝堂が併設され、聖母マリアの奇跡の画を拝むために訪れる人々で絶えずにぎわっています。観光客が写真を撮る一方で、地元の人々が足を止めて祈りを捧げる姿もあり、ここが「観光名所」であると同時に「信仰の場」であることを実感しました。

Aušros Vartų g. 14, Vilnius, 01303 Vilniaus m. sav., リトアニア

ハレ市場

ハレ市場

門をくぐって数分歩くと、レンガ造りの大きなホールにたどり着きます。ここが 「ハレ市場」。
地元の食材や惣菜、パン、チーズ、スパイスなどがずらりと並び、歩くだけで香りと色彩に包まれる活気ある空間です。
市場の一角には小さなカフェがあり、私たちもそこでひと休み。選んだのは温かい紅茶と、ピロシキのような焼き菓子。外は香ばしくパリッと焼かれており、中にはほのかにスパイスを効かせた具が詰まっていました。素朴で優しい味わいでした。

Pylimo g. 58, Vilnius, 01136 Vilniaus m. sav., リトアニア

ヴィリニュス駅

ヴィリニュス駅

ハレ市場から少し歩くと、ヴィリニュスの鉄道の中心 「ヴィリニュス駅」。
構内には小さな売店やベーカリー、カフェが並び、コーヒーを片手に列車を待つ人々の姿が見られます。首都の中心駅ですが、規模はコンパクトで、利用者の多くは地元の通勤客や学生。鉄道に加えて駅前にはバスターミナルもあり、国内各地や周辺国への交通の拠点となっています。

Dwarf Passage(ドワーフ・パッセージ)

Dwarf Passage(ドワーフ・パッセージ)

旧市街を歩いていると、ふと現れるのが 「Dwarf Passage(ドワーフ・パッセージ)」。
首都の中心にありながら観光ガイドにはあまり載らない、まさに“知る人ぞ知る魔法のトンネル”です。この小さな通路は プランシシュコナイ通りとヴォキエチシュ通りをつなぐ秘密の抜け道。壁にはユーモラスな小人のアートが描かれ、散策の途中に立ち寄ると大人も子どもも思わず笑顔になります。ヴィリニュスらしい遊び心を感じられる、ちょっとした寄り道におすすめの場所でした。

占領と自由の戦士の博物館

占領と自由の戦士の博物館

旧市街を抜けてたどり着いたのは、私たちがこの旅で特に訪れたかった場所のひとつ、「占領と自由の戦士の博物館」。
かつてKGB(ソ連国家保安委員会)の本部として使われていた建物を利用した博物館で、リトアニアが経験した20世紀の苦難の歴史を、今に伝える場所です。

外観は落ち着いた石造りですが、一歩足を踏み入れると空気が変わります。展示室には、ソ連占領下での市民生活や独立を求めた抵抗運動に関する資料が整然と並び、壁には当時の写真が静かに語りかけてきます。
特に印象的なのは地下に残された 牢獄跡。薄暗い独房や取り調べ室を歩くと、そこに閉じ込められた人々の恐怖や苦しみを想像せずにはいられません。厚い扉や冷たいコンクリートの壁は、ただの展示以上に強烈なリアリティを放ちます。
この博物館を訪れたことで、ガイドブックの文章や年表だけでは感じられない“生の記憶”に触れることができたのです。私たちにとって、ヴィリニュス散策の中でも特別な時間となりました。

街歩きの締めくくりに

街歩きの締めくくりに

旅の終わりに立ち寄ったのは、広々とした ルキシュケス広場。政治集会や歴史的な出来事の舞台となったこともある場所ですが、今は芝生やベンチが整備され、市民が思い思いに過ごす憩いの場になっています。

芸術、信仰、歴史、そして日常。見どころがたくさんあるヴィリニュスを、本当にたくさん歩きました。

✈️ 次回は、リトアニアを代表する巡礼地 「十字架の丘」 へ。おたのしみに